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けんこう定期便

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けんこう定期便

No.7 老いない体をつくる

中京大学教授 湯浅景元先生 (プロフィールはこちら)

老いることは自然の成り行き、止めることはできない。それでも「”老いない体をつくる”ことを目指して生きる方が、充実した人生を送れるのでは」と湯浅景元先生は言います。そのためには「体を動かすこと」、つまり運動が大切だと話される先生。記念すべき第1回のスポーツフォーラムでは、「老いない体」に効果のある”運動=処方箋”をたくさんご紹介いただきました。是非ご自身に合った”処方箋”を見つけてみてください。
第1回目のフォーラムにお招きいただき、ありがとうございます。大変光栄です。早速ですが、皆さんは、体を動かすことをどのように思われているのでしょう?反対に、動かさないと一体どういうことが起きるとお考えでしょうか?最新のデータから、横になって寝た瞬間から、カルシウムはどんどん抜けていく、筋肉もやせ細っていくということがわかってきました。つまり、運動しないと…筋肉も骨もやせ細ってしまう、ということです。

科学的なデータが明らかにしたのは、それだけではありません。運動をしないことで動脈硬化や心筋梗塞になりやすくなる。骨粗しょう症、あるいはアルツハイマーになりやすくなる。大腸がんがウォーキングのような有酸素運動と関係が深いということまでわかってきました。さらに、誰にでも起きてくる「老化」も、運動をせずに放っておくと…その速度が加速されてしまうことも。ですから今日は、「是非運動をしていただきたい」ということを中心にお話しさせていただこうと思います。
運動の大切さを説かれたあとで、「脳」「心臓・血管」「骨」「筋肉」のそれぞれに効果のある運動について、お話しいただきました。最初は、新しい物好きの「脳」に効く処方から…とにかく慣れすぎず、不慣れなことに挑戦していくことが、最良なのだそうです。

脳に効く運動

とにかくいろんなことをしましょう。
やたらとブームになっていますけど、「脳トレ」というのは、それだけじゃ何の効果もありません。

脳というものには、さまざまな刺激を与えてあげて、いろんな細胞同士が繋ぎ合っていくネットワーク、これをつくってあげなければいけない。だから、一つのことだけやっていては駄目なんです。とにかくいろんなことをしましょう!これが脳への刺激として最も良いんです。アメリカでは、季節によってスポーツを制限している州もあるくらいです。何月から何月はこのスポーツをする、何月から何月はこのスポーツはしないと、はっきりさせているんですね。

“バスケットの神様”と言われるマイケルジョーダンも、野球のシーズンにメジャーリーグの選手として出場した経験があったりするわけです。毎日同じ仕事をしている時の脳の活動を見ると、ほとんど変化していません。ところが、普段やったことも無い仕事をパッとお願いすると、突然脳が活発に動く。脳のことだけを考えれば、いろんな刺激を与えてあげることが極めて大事だと言えます。

三日坊主の趣味を持ってみましょう。
今、脳の専門家の間には、趣味を二種類持とうという考えがあります。一つは、とことん練習、稽古して上手くなる趣味…楽しいから、どうぞやってください(笑)。もう一つの趣味は、三日坊主の趣味…飽きちゃう趣味を、是非持ってもらいたいんです。この”飽きちゃう趣味”が、前頭葉と言って、「生きるぞ」とか、「やるぞ」とか、こういう”やる気”を起こさせる部分を刺激してくれるんです。前頭葉という生きるための大事な刺激を出す部分は、とても飽き性、慣れることが大嫌いなんですね。新しいものが欲しいわけです。

これまで「三日坊主は駄目だ」とか「堪え性がない」って言っていたんですけど、そうじゃない。飽き性、三日坊主が出てきたということは、前頭葉が「刺激が少なくなったよ」と合図を送ってくれているわけです。そう考えると、三日坊主の趣味、飽き性な趣味を持つことは、脳にとって、とても良い運動になると言えるのではないでしょうか。

続いては、これも気になる「心臓・血管」のお話。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が、「心臓・血管」の動きを良くしてくれるそうです。くれぐれも過度にならないように注意しながら、の条件付きですが…。

心臓・血管に効く運動

“脳”に惑わされないようにしましょう。
今から四十年ほど前にジョギングブームが始まって、実際に走る人がかなり増えてきました。ところが…ご覧になった方も多いと思いますが、そのジョギングブームのきっかけを作った推奨者がジョギング中に死亡しました。ランニング中の突然死は、年齢に関わらず、かなり高い頻度で発生します。これはなぜか?そう、脳に惑わされているんです。走り始めてしばらくしたら呼吸が少し苦しくなってきて…そこで止まってしまえばいいのに、苦しいけどちょっと頑張ってみようと。すると、すぐ楽になってきて…よしよしと。皆さんの中にも、スポーツで走ったことがある方は経験があるかもしれません。これが危ないんです。体を危険にさらすのは、”ベータエンドルフィン”という脳内物質。「脳内麻薬」とか「快楽物質」と言われたりするものが、ふっと脳に出てくる。このベータエンドルフィンのおかげで、心臓や血管が苦しい状態なのに、脳が麻痺してその苦しさを一瞬忘れちゃうわけです。

ウォーキングから始めてみましょう。
となると、ジョギング自体は問題ないけれど、普段走り慣れていない人が急に走ると危険が伴ってしまう。ではどうすればいいのか。まずは安全な、それでいて心臓や血管に負担がかかる「ウォーキング」から始めるのがいいということで…今あらためて、ウォーキングが見直されてきています。「ちょっと最近は運動してない」という方が、「走りたいな」「市民マラソン大会に出たいな」というときには、ウォーキングを薦めてみてください。

まずは二、三か月、ウォーキングで心臓や血管に刺激を与えてからでないと、いきなり走るのは良くありません。そして、ウォーキングでも、呼吸や心拍数など、何か体の変化を目安にしたほうがいいでしょう。運動しているときの呼吸の苦しさで判断してみると、「少しきついな」と感じる程度が、ちょうど良いということを覚えておいてください。

「骨」は、衰えてきても気付かない人がほとんどだと言います。そして、いったん弱くした「骨」を強くするのは、かなり難しいそうです。そんな”骨を丈夫にする”方法があるのでしょうか?どういう運動が必要なのでしょうか?

骨に効く運動

できるだけ高く5回跳んでみましょう。
骨を強くするために効果があるのは、衝撃力を伴う運動です。例えばどういう運動がいいかと言うと…”ジャンプ”、跳ぶことです。これはもうご存じの方もいらっしゃると思います。骨は瞬間的に大きな力を加えない限り、強くできません。意外にもお相撲さんの足の骨は、我々一般の人間よりもちょっと太いだけで、それほど太くはありません。稽古でジャンプする姿、見たことありませんよね。骨が丈夫になるには、衝撃力が最適なんです。

それでは、そのジャンプ、いったい何回やったら効果があるんでしょう?1回では、あまり効果は期待できません。3回以上でないと効果は出てこない。では3回を5回にしたらどうなるか?もっと効果が出る。5回跳ぶのを10回繰り返したらどうなるか?ほとんど効果は横ばいになる。もっともっと、15回跳んだらどうなるか?これでは反対に骨が弱くなってきてしまう…5回ほど高く跳んで、骨を強くしましょう!

“重り”をつけて疑似肥満になってみましょう。
もう一つの方法は、疑似肥満になるということです。骨を丈夫にする”手っ取り早い”方法は肥満になることだって…ご存知ですよね。体重が増えると骨にかかる負荷が強くなってきますから、骨が丈夫になっていくんです。そこでお薦めしたいのが、体に”重り”を付けるということ。これだけでも、うんと効果があります。今日は外してきましたけど、普段は片方の足首にアンクルウエイトですね、5kgのものを二つ付けています。そして、鞄をいつも二つ持ち歩いています。二つ合わせると少ない時で25kg、多い時で40kg…私自身、こんな感じに疑似肥満を実現して、骨を鍛えています。
最後は、一気に衰えてくるという「筋肉」の話です。とにかく体が動くうちは何としても動かさないといけない…筋肉は鍛えなければいけないようです。でも、それだけじゃなく、ちょっと面白いことを教えていただきました。

筋肉に効く運動

一日に一つ、硬くて大きな物を食べましょう。
最近注目されているのが顎の筋肉です。顎の筋肉を使わないと、脳に悪影響を及ぼすんですね。東京の病院で経験したことですが、ある患者さんが口から食べられなくなり、直接胃に食べ物を入れて栄養を摂るようになってしまったんです。もちろん生きています。だけど脳はだんだん小さくなって…これは明らかに顎の筋肉、咀嚼筋をちゃんと使わないと、脳の刺激が少なくなることを表しています。ものを食べるということは、消化吸収ともう一つ、脳に刺激を送って脳の衰えを防ぐ役目もあると、そのとき患者さんと接してわかったわけです。

ただし、今の食事は調理技術が発達し過ぎたために顎の筋肉には負荷が弱い、柔らかい食べ物が多過ぎると思います。一日に一つくらいは、やや硬めで、やや大きめのものを食べること。これを脳への刺激を起こす運動だと理解されたらいかがでしょうか?例えば林檎を丸かじりした時と、小さく切ってかじった時とで、顎の筋肉は、全く違う使われ方をします。一個丸ごと食べると、顎の筋肉は活発に使われる。林檎の丸かじり、これも脳を刺激する”筋肉の運動”です。
椅子に座って足を素早く動かしてみましょう。
“素早さ”…速筋遅筋とよく言いますけど、これからの高齢社会には、速筋による素早さが必要だと言われるようになってきました。例えば交通事故を起こした高齢者の方を調べると…原因がだいたい一致していたりします。「追突」、自分からぶつかっちゃうんです。運転していて危ないとわかっていても、パッと足が動かないんです。速く動く筋肉は、だいたい20歳代がピークで、あとは一気に衰えてくる。ウォーキングのようなときに使う、ゆっくり動く筋肉はあまり衰えない。だから70歳、80歳でも元気な方は散歩できるんです。だけど歩いてばかりいる人は、速く動く筋肉を忘れちゃっているから、パッと足が動かない。歩いているだけでは駄目なんですね。

ウォーキングのときは、足を動かす筋肉の中の遅筋という、ゆっくり動く筋肉だけに命令が行っています。速く動く速筋というものは休んじゃっています。だから、いざというときのために、速く動く筋肉を動かしておかなければいけない。3秒から5秒の「足踏み」で結構です。椅子に座って両足を速く動かしてみてください。これだけでも素早く反応する”足”ができてくるはずです。年を取ると筋力が自然に衰えてきますから、交通事故を起こさないためにもブレーキが素早く踏めるだけの速筋を足に残してあげないといけない。ウォーキングだけでは不足なんです。
「アンチ・エイジングには反対」が持論の湯浅先生は、”エイジングを楽しむ”という発想を持ってらっしゃいます。長く生きている限り、老化は起きる――ならば、「老化と」言わず、「歳を重ねる」という言葉にしていくのはどうかと。抗うのではなく、歳を重ねて熟成していくという「エンジョイ・エイジング」もいいんじゃないかと。さらに先生は続けます。「いかに歳を重ねることが楽しいか、そのために体をどう扱ってあげるかを、どうぞ患者さんと一緒に考えてください」。我々鍼灸の世界に生きる人間の”心に効く運動”として、大いに学び、応えていかなければいけないところです。
 

湯浅景元(ゆあさかげもと)先生プロフィール

中京大学体育学部卒業。中京大学スポーツ科学部教授。医学博士・体育学修士。東京医科大学客員講師、オーストラリア・グリフィス大学高等研究員などを歴任し、現在、名古屋市教育スポーツ振興事業団評議員等。NHKスペシャル、NHK今日の健康などのテレビ出演等で健康づくり運動の普及につとめる。現在、フィギュアスケートの安藤、浅田、小塚選手の教育にもあたっており、著書には「老いない体をつくる」(平凡社新書)など多数。
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