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けんこう定期便

Health News

けんこう定期便

No.1 元気の源は日本型の食生活から

料理研究家 清水信子先生 (プロフィールはこちら)

「けんこう定期便」の創刊にあたり、健康的な生き方を考えるなかで、私たちの命の糧であり健康の源となる「食」の大切さ、四季が育む日本の豊かな食文化について、料理研究家・清水信子さんにインタビューさせていただきました。
編集部
「和食」は世界に誇れるわが国独自の食文化だと言えますが、その大切さを若い世代に伝えていく意義についてお聞かせください。
清水先生
日本の食というのは長い歴史があって現在があります。日本列島は北から南に長く、気候や風土が違うようにそれぞれの土地でとれるものがみな違うわけです。この『とれるものが違う』ということを知らなければなりません。
日本には四季がきちんとあり、うららかな春の次には暑い夏が来て、次に涼しい秋というように季節がうつり、寒い冬の次には芽吹きの春が来ます。
身近な土地でとれる旬のものを食べることが健康につながります。その土地でとれたものを、その土地で消費するという、いま流行りの『地産地消』が体には一番良いのです。
編集部
快適すぎるといわれる今の生活が、四季の変化を感じにくくしているのですね。
清水先生
人間は春が来ると細胞が活発になってよく動くようになるわけですから、自然の働きを上手にとらえて、四季折々のものを食べなければ健康にはなれません。つまり、その風土に合った旬のものを食べるということが大切ですね。ですから私は寒い冬には、体を冷やす夏の食材であるトマトやナスはなるべく食べないようにしております。
ですが、体を冷やす食材を使わざるを得ない場合では、ショウガ、ニンニク、ネギなどの体を温める食材を使い、油を使って炒めたり、煮たりして熱を加えて調理すれば体を温めることができます。
編集部
昨今はファストフードが全盛で、子供の健康に危機感を抱く方が増えてきました。
清水先生
京都大学大学院の伏木亨教授が「子どもの味覚は6歳までに決まる。その間にきちんとした日本食を食べさせなければいけない」と力説されています。
人間は30歳くらいになると基礎代謝量が減ってそれほどエネルギーを必要としなくなりますが、その頃になると6歳ごろの味覚に戻るといわれています。ですから、6歳までにきちんとした日本食の味を覚え込ませていれば、低カロリーである日本食への回帰が容易となり、健康な身体にも返りやすく、結果的にメタボリック症候群などにもならなくてすむのです。
また、子どもが生活習慣病にかかってしまって治療を受けなければならなくなる原因の一つには、小さいうちからファストフードなどの味に慣れさせてしまうことが関係していると、伏木先生は強くおっしゃっていますが、私もそのとおりだと思います。

編集部
鍼灸の臨床現場でも、食事チェックと指導を心がけることが大切だと痛感します。
清水先生
間違った食事は恐ろしいものです。これを知らないで子どもたちに食べさせるということは、もっと怖いことです。これからの世代を引き継いでいく自分の大切な子どもなのですから、命の糧、健康の源である食をおろそかにしてはいけないと思います。
編集部
最近は低体温の方が急増しています。日々の食生活を改善する方法を患者の皆さまから聞かれることが多いのですが、やはり大切なことですね。
清水先生
そのとおりです。最初にお話ししましたように、日本列島は地域や季節によってとれる作物が違うわけで、冬になるとダイコン、ニンジン、ゴボウなどの根菜類がたくさん出まわり、ホウレン草や小松菜なども霜にあたって育ちます。温室で育ったものは形も色もきれいですが、露地栽培で霜にあたったチヂミホウレン草は、葉が厚く葉の隅が枯れていたりして、見た目はよくありません。しかし、その根を切って水に漬けるとまるで蘇ったように「ボクはがんばっているぞ!」という形になるのです。その『がんばり』が大事なことで、それを食べるから元気をいただくことができるのです。食生活を変えることで低体温が快然され抵抗力も高まります。
編集部
食を考えるうえで栄養やカロリー計算なども大切なことでしょうが、多くの方が数字にこだわりすぎているのではないでしょうか。
清水先生
食事に何が足りないか、何をとりすぎているかなどを計算して知ることは大切ですが、あまり数字にこだわらず、あくまでも目安と考えたほうがいいでしょう。多くの情報の中からいいものは試してみて、選択する力を養うことも大切です。生き物の命をいただくことへの感謝、ご飯を作ってくれた人の気持ちを考え真摯な態度で食べること、そして、物をむやみに捨てないことは、人間としてあたりまえに大切なことですね。
編集部
自然栽培には人工栽培にはない『力』があります。その『力の差』をよく考えなければなりませんね。
清水先生
人間は土から生まれて土にかえるものだと思っています。今は人工的に光と熱と水で作る水耕栽培という方法がたいへん流行っているのですが、不自然な栽培方法で育ったものを食べる気にはなりません。光や熱や培養液がどんなにすぐれたものであっても、土の力を借りないものに底力はないのではないかと思います。
日本は南北に長い地形で北と南ではとれるものが違いますが、常にその土地で暮らす人々の体に合った旬のものが収穫できますから、旬を忘れない食生活をおくるということが、大切なキーワードだと思います。
編集部
いま、水田がどんどん減って主食である米の自給率低下が心配されています。なんとかしなければという声が聞かれますが、これについてはいかがでしょうか。
清水先生
国土の多くは山ですが、山の木が水の浄化を助け、空気もきれいにします。山はいろいろな栄養を水の中に取り込み、その山から流れ出た水が水田を潤してくれます。木を倒し水田を減らしてどうするのでしょう。水田は日本文化の根源ですからね。
編集部
今年、日本鍼灸師会は創立60周年を迎えます。記念公開講座では、清水先生から多くの皆さまに食の大切さを伝えていただきたいと思っています。
清水先生
会場に足を運んでくださる方々に食への関心を今まで以上にもっていただき、そこから少しでも食を考えるお気持ちが広がっていくようになればと思っております。
食に関することを私たちがより多くの皆さまにお伝えすることによって、どなたかが「そうかもしれない」とか、「そうだ!」と気づいてくださり、そこから周りの方々に伝わっていけば良いですね。『一人を知ることによって百人を知る』と言われますからね。
日本鍼灸師会が催される事業によって、多くの皆さまが食の大切さに目覚められ、健康を願うお気持ちがさらに広がることを期待しております。皆さまのご来場を心からお待ち申しあげます。
編集部
どうぞよろしくお願いいたします。5月の講演を楽しみにしております。
本日は、ありがとうございました。(インタビュアー:一見隆彦、新谷有紀、秦 宗広)
 

清水信子(しみずしんこ)先生プロフィール

料理研究家。旬の素材を生かした懐石料理から家庭料理までを幅広く手がけ、日本の食文化である「和食」の伝統と智恵を活かし、若い世代のライフスタイルに合わせた食生活の創造と研究に熱い思いを注ぐ。「NHKきょうの料理」をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌、料理講習会で活躍中。「和食かんたんおけいこ帖」など著書多数。東京都在住。
■著書紹介
清水信子手づくりのおせち
(家の光協会)
とっておきの和食おいしいひみつ
(家の光協会)
和食かんたんおけいこ帖
(NHK出版)
基本の和風こんだて
(主婦と生活社)
いいことあったら「ハレの日」ごはん
(主婦と生活社)