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けんこう定期便

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けんこう定期便

No.17 東洋医学を用いた、身体にやさしい新しい医療

慶応義塾大学教授・参議院議員 古川俊治先生
ノンフィクション作家 吉永みち子先生

“物の弾み”で政治家になり、作家になり・・・しかも二足ならず、三足、四足と“わらじ”をお履きになられ・・・凡人には何とも理解しがたい異色の経歴を持たれる古川俊治さんと吉永みち子さん。プライベートでも親交のあるお二人をお招きして、『身体にやさしい医療』について、独特の感性でひもといていただきました。みなさまの健康増進に役立つお話が聞けると思いますので、最後までお楽しみください。
参議院議員で外科医の古川さん。そして、主婦で作家の吉永さん。医療と言っても、まったく共通の話題が見えてこないお二人ですが――
古川
その前に言わせてください。吉永さん、あまり年取らないようだけど( 笑)。最初にお会いした時から10 年は経っていますよね?いや、もっとかな?なのに、お変わりにならない。そもそも、病気には縁がないように見えますけど。
吉永
ありがとうございます。周りからも「いつもお元気そうですね」って言われるんですよ。病気ひとつしないで、ここまで元気で来ているように思われがちなのですが・・・生まれた時からかなり病弱で、病院も出たり、入ったり。だから、病気には結構縁があるんですよ( 笑)。
古川
そうは見えませんけどね。実は私も40 歳ぐらいになって、病院の厄介になりました。“人生初”の入院体験です。1週間ほど、肺炎で入院して・・・実際、年を取ってくると、少しずつ、いろんな病気が出てくるんですよね。
吉永
若い頃、新聞に「老婆殺される」という見出しがありましてね。見たら55歳。「55 から老婆って言われるんだなー」と思っていたら、とうに過ぎちゃった。ただ、気持ちは若いんだけど、長い間使っている身体の方は・・・疲れてきているなと実感させられることが多くなりました。
古川
癌を始めとして、いろいろな病気が少しずつ、年齢を重ねるごとに出てきますから。いわゆる“生活習慣病”ってやつですよ。「年を取る」って・・・吉永さん、どういう風に思っていらっしゃいます?
吉永
気持ちは、30 代でも40 代でも全然変わらない。それなのに、膝が痛くなったり、腰が痛くなったり・・・。今まではへっちゃらだった徹夜がまったくできなくなるとか、そういう身体の変化に、自分自身が気づいてしまう――そういうことなのかもしれませんね。
みなさんお年を召してきて、いろいろな病気や症状が出てくる・・・高齢化社会です。こうした現代社会の中で、日本の医療、どう映っていますか。例えば、病院。今の病院って、どんな感じでしょうか?
吉永
保険制度が充実していて、何かあったときに、割とすぐに診てもらえる。でも、高齢化社会を迎えて、病気の人が増えてきたり、病気を心配する人が多くなったりすると・・・制度的なものが破綻していくんだろうな、という不安も感じています。

古川
なるほど。確かにそうなんです。日本は病院に行きやすい。世界でこれほど医者にかかれる国は、そうありません。そして、もうひとつ。日本の医療費って、これでもとても安いんです。先進国の中では世界で一番、国民総生産に対する医療費が低い国です。アメリカは日本の倍使っています。世界的にも「良い医療だ」と、ずっと言われてきたんです。
吉永
そうですか・・・でも、あまり“良い医療”の実感がないのはどうしてでしょう?私たち、子どもの頃は、「お医者さん」という感じだったのが、だんだん医療技術者的になってきて・・・何か最近、患者との距離がずいぶん広がっているなという気がしてなりません。
古川
そう、そこです。患者さんがあまり満足していない・・・これが日本の医療で、すごく問題なんですね。どこの国でも、体制が十分でないところでさえ、患者さんにもっと感謝されています。日本は患者満足度が低いというのは、データでも明らかに出ていますから、ここを何とかしていかないといけない。
吉永
自分が本当に不安に思っていることや、「こういうこと言って怒られないかな」という心配をしないで、いろいろ話せるお医者さん。それが、いいお医者さんなのだと思います。江戸時代とかの昔、お医者さんの資質って、“明るいこと”だったらしいんです。患者と同じ位置に立ってくれて、言えないでいることを引き出してくれる――そんな明るい先生がいいですよね、絶対!
古川
最近特に良くないのが・・ずっとパソコンに向かっている先生。電子カルテってご存じですか?患者さんが入ってくると、ポンと番号入れる。すると、パソコンにデータが出てくるんです。次に話を聞きながら、カルテをキーボードで打たなければいけない・・・ほとんど患者さんの方を見ない。これじゃあ、満足しようにもできませんよね。
日進月歩、技術革新が著しい西洋医学ですが、診断・治療の華々しい発展に隠れた、陰の部分とでも言うのでしょうか。もう、技術だけでは語れないところまで来ている?
古川
言ってみれば、最近の医療というのは、患者さんのデータは見るけど、本人は見ない。症状を診ようとしないんですね。何を診るかといえば、臓器を診る。心臓という臓器は診るけど、身体はほとんど診ない・・・そして、“病人”を考えることをしなくなりました。これはとても由々しき問題です。
吉永
ずいぶん長いことかかっているのに、顔も覚えてもらえないという人がたくさんいらっしゃる。でも、その人の心臓は覚えているんでしょうね、きっと。その人の病気は覚えている・・・。
古川
病院で専門の勉強をしている人、例えばずっと心臓をやっている人なんかは、心臓のことしか聞かないし、心臓しか診ないです。そうすると、他のところに違う病気があっても、わからない。見えなくなっちゃうんですね。大学病院にいた時のことです。「腸に痔があるから診てほしい」と言われて、心臓の病気で入院されている患者さんを診ました。そうしたら・・・大きな直腸癌があった。大学病院の教授が診ているのに・・・心臓しか診ていないんですね。だから他のところは見落としてしまう。
吉永
病院に入っているから大丈夫だと思っていても、たまたま自分が受診した科以外のところに病気があったら、探してももらえないみたいな・・・ちょっと怖いですね。それに、あまりにも部位で細分化された医療になってしまっていると、ものすごく自分の身体が細切れになっていく感じがするんです。それもちょっと嫌かな?
古川
医療システムの問題として、とてもデータ中心になってきています。本当は「こういうところが痛い」とか、患者さんの訴えていることが大事なのですが、どうしても「写真ではこう、CT ではこう」だとか、「検査データがこうだから」と説明したがる。そういう医療が多くて・・・哲学が失われた医療ですね。こういうのが、とても多くなってきている。

吉永氏

吉永
「お医者さん」が少なくなってしまった――ということですよね。患者の側も、検査に頼り過ぎると、自分の身体の発するシグナルに鈍感になっちゃうような気がして・・・自分の身体が一生懸命治そうとしていることがあるじゃないですか。私は、そういうものの邪魔をしないで手助けする感じが望ましいと思うのだけれど・・日本の医療がすごく受診しやすいのに、不満が多いというのは、ちょっとしたことですぐ病院に行って、「この症状を抑えてくれ」、「無くしてくれ」という気持ちが、ものすごく強いからだろうと思うんです。それなのに、長い間待って、あっという間に終わって薬だけ山盛り。「何だろうな、疲れちゃったな」と帰ってくるわけです。それが不満足にもつながっているんだろうと思います。
人間が元気になるには、免疫の機能があります。そして、病気が起こったときに「治ろう、治ろう」とする自然治癒力・・・東洋医学は、そうした人間が治っていこうとする、元気になろうとすることに、しっかりと後押しできる治療であることがわかってきています――
古川
西洋医学というのは、何かを診断してから、検査して処方する――でも、それでは解決できないときもあるんです。例えば、下痢の患者さんがいらっしゃるとします。どんなに診断して、検査して、処方しても、少しも下痢が良くならない。しまいには「あなた下痢じゃないはずだ」となるんだけど、逆に「下痢だ、間違いない」と言われちゃうわけです。本当に治療ができないんです。そのときの手段として、最近脚光を浴びているのが、漢方薬なんです。吉永さんは漢方薬って、使ったことありますか?
吉永
割と身近でしたよ。小さい頃には、ちょっと具合が悪いというと、煎じ薬ですね。だから、あのにおいには、小さい時から馴染んでいます(笑)。私にとっては「これを飲むと母親の機嫌が良くなる」とか、いいことに結び付いたにおいなので・・・あのにおいは、別に嫌ではないですね。
古川
漢方というのは、西洋医学とまったく体系が違っていて、“患者さん中心”というか、「患者さんをどう治療するか」というところから入っていくんですね。原因ではなくて症状から。患者さん中心の医療を考えたとき、漢方を始めとした東洋医学の体系と、西洋医学、両方の良いところを取り入れた医療が、何とか実現できないか――これから私たちが目指していく方向だと思っています。その中には、鍼灸の技術もあるのですが・・・今度は鍼とお灸です。吉永さん、鍼灸の経験はおありですか?
吉永
お灸は・・・母がやっていたのがえらく熱そうだったことが、妙に記憶に残っています。もぐさが最後まで燃えていって、いよいよ我慢の限界みたいなところでパッと押さえる。子ども心に、「これは熱くて嫌だ」と感じていました( 笑)。鍼というのも、ただ痛そうだなと思っていて・・・それに“鍼灸治療院”という字が読めないこともあって、結構遠のいていましたね( 笑)。
一般的なお灸のイメージそのものですね( 笑)。現在のお灸は、ずっと火をつけて燃やしているようなものではありません。米粒ほどの大きさでツボを刺激します。お灸の刺激で、免疫機能が上がるといわれています。では、鍼のイメージはいかがでしょう?
吉永
「飛行機に乗れないから何とかしてくれ!」と大騒ぎして、腰が痛くて腰痛がどうにもならなくて・・・その痛みを治すのに、通ったことがあります。「痛くない?本当に痛くない?」と何度も訊きながら、「痛かったら帰るから!」と言いながら(笑)。そのとき「これはすごいな」と感心しました。「こんなところに刺しちゃって大丈夫かな」という場所でも、本当に痛くない。おかげで飛行機に乗れるようになりましたから・・・「鍼は効くんだ」と思っています。
もちろん痛くはありませんが・・・一般に「痛いはず」と思われている鍼が、なぜ効くのでしょう?それは痛みを取るだけじゃなく、心地よさを感じられる治療だから。鍼をすると、痛みを抑える“モルヒネ”と同様の物質が、脳から分泌されることが科学的にわかってきました――
古川
日本の医療が目指すべき方向は、とりわけ高齢化社会におけるいろいろな症状に応じた医療をやっていく――そういうことになると思います。それを西洋と東洋の融合、すなわち「統合医療」でやっていきましょうということです。患者さんに近いところというか、患者さんの考え方、気持ちに沿った医療、これは世界でも求められていて、アメリカやヨーロッパでも、統合医療を求める患者さんからの声が非常に高まっているところです。

古川氏

吉永
西洋医学と東洋医学――その2 つが共にあるということは、すごく重要な気がするんです。まさに和というのか、調和というのか・・・私の中では「どっちにしようかな?」みたいな感じで並立している医療なんですけど、患者の立場として言わせてもらえば、身体の内から外から、元気になるきっかけを与えてくれる――そう思っています。
古川
みなさんがいろいろな健康法を選べるようになるというのは、大変好ましいことだと思うんですよ。医者という立場からも、健康に興味を持っていただいて、そして自分の身体とうまく付き合いながら生きていくことは、とても大切だと思います。そういう機会、患者さんがいろいろなものを選択して、自分自身の健康法を、自分の側からも考えていける、できればそういう“やさしい”医療を作っていけたらと思っています。
医療技術ははるかに進歩したけれども、患者の心は置き去りにされてしまった――今は、古の医療哲学を取り戻す時期に来ているのかもしれません。新しい医療は、革新的なものではなく、昔から私たちに寄り添っていた、心地よい医療なのかもしれませんね。
古川俊治さん、吉永みち子さん、ためになるお話、どうもありがとうございました。