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けんこう定期便

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けんこう定期便

No.18 【前編】いつまでも元気でいたい~“超”高齢化社会を明るく乗り切るために、鍼灸師ができること

「鍼灸師を介護保険の枠組みに」という志(こころざし)のもと、平成17年から取り組まれてきた『介護予防運動指導員養成講座』も、25回を数えています。今回、その講師の方々5名をお招きして、広く介護予防のお話をうかがいました。
円卓を囲み和やかな雰囲気のなか、講座を始めたきっかけから鍼灸師の夢!?まで、たくさんお話しいただいて・・・とても、今号だけでは紹介しきれないほどです。そこで、『けんこう定期便』としては初めて、前後編の2回掲載にしてみました。
意外にも知られていないことの多い”介護”。いたずらに暗い気持ちになるのではなくて、明るく立ち向かう――その、ちょっとしたヒントを見つけてもらえればうれしいですね。
座談会参加者
・村上由佳氏(元花園大学社会福祉学部非常勤講師・介護予防主任運動指導員)
・吉村春生氏(介護予防主任運動指導員)
・永澤充子氏(介護予防主任運動指導員)
・髙田常雄氏(日本鍼灸師会介護予防委員長・介護予防主任運動指導員)
・松浦正人氏(日本鍼灸師会介護予防副委員長・介護予防主任運動指導員)

鍼灸の世界と介護の世界と

「いつかどこかで使おうと勉強している人は、やっぱり応援したくなりますよ(髙田)」
まずは、日本鍼灸師会が『介護予防運動指導員養成講座』を始められたいきさつから、お聞かせください。
髙田
平成15年の”介護報酬見直し”をきっかけに、「介護保険制度の中に鍼灸師を!」と意気込んで・・・まずは、「介護予防運動指導員を養成する講座」をやろうとなりました。
永澤
もう8年経つんですね。とても早い気がします。

髙田
これまでに25回やらせていただきました。900名以上の人たちが勉強している計算です。でも、実際には使ってない人がほとんど。「何のために受けたの?」と訊くと、「知識のため」と言う。勉強して知識とは・・・ずいぶん鍼灸師らしい回答ですよ。
吉村
簡単なことでも、説明を聞いてからじゃないと、納得してできない人も多い。どう判断するんだというのも、十分理解しないと困る部分もあるので・・・そういう意味で、知識を得るということは、必要なんだろうと思います。
髙田
確かにそのとおりだけど・・・「なんで生かさないの?」と尋ねると、「必要がないから」と思っている人がいる・・・これが残念でたまらない。もちろん「生かし方がわからない」とか「いつかどこかで使うんだ」と思って勉強している人もたくさんいます。こうした人たちは、やっぱり応援したくなりますよね。
「鍼灸師さんだからこそ、痛みの緩和とかができる。だから、生かす場面はたくさんあると思う(村上)」
村上
すみません、ちょっと割り込んでもいいですか?鍼灸師じゃない私が、実際に介護予防をやっていますけど――いつも講座の中で言わせてもらうのですが――やっぱり鍼灸師さんだからこその部分って、ありますよね。痛みの緩和とかができるというのは、すごい武器だと思います。だから、生かす場面はたくさんあると思うんです。
松浦
講座を受けた鍼灸師ではない人が、話してくれたことがありました。「鍼灸師と介護予防っていうのは、まったく結び付かなかった」と。そして「お金を出して講座に行って、本当にいいものかどうか非常に迷った」と(笑)。普通に考えるとそうなりますよね。

村上氏

村上
そこをどうするか、ですね。介護福祉士の立場では、何かしてさしあげても痛みが出てしまうことを考えると・・・やっぱり怖い。だから、そこでやめてしまおうかと思ってしまう。でも、医療の知識をお持ちである鍼灸師さんなら、介護予防がすごくうまくいくじゃないかって、そこが強みなんじゃないかって。
8年の間に講師も受講者も、ともに少しずつ変わってきているとか。今では「高齢者を診ずして、鍼灸を語ること無かれ」と。その背景には、日本が迎えている”超”高齢化社会があるようです。
高田
はじめは「鍼灸をいかに介護保険の中に入れていくか」が目的だった―― で、実際やっていくうちに、鍼灸が入るというよりも、講座が現在の鍼灸師にとって必要なものだと強く感じ変化してきました。みんなに覚えてもらいたい、そしてこれからの鍼灸師全員に覚えてもらいたいというのが、今、一番強く思うところです。そういう意識に変わってきたんです。
松浦
高齢者が増える。介護が必要になる人も、今からどんどん増える。だから、それを予防して元気に過ごしたい人たちは、いっぱいいるはず。そう考えると、「介護予防は非常に大事なんだ」と鍼灸師が意識しないと、今の髙田先生の話も始まっていかないんですよ。

高田氏

高田
日本の社会が高齢化に向かっているのは、みんなわかっていることだし、関東近県なんか、人口こそ他県より減らないけど、高齢者の割合はぐっと増えるわけでしょ。そうしたら、高齢者は診ないで、今までの患者さんだけを診るというわけにはいかないはずです。高齢者の認知的なことにしたって、自分の患者さんが認知症になることもあるだろうし、家族の中でもなっている人がいるかもしれない。だから、介護予防的な治療法が必要になってくるはずなんです。
「勉強して良かったと言う若い先生が、何人もいます。結局はそういうもの、良いことなんです(松浦)」
松浦
高齢者に対しては、高齢者特有の性質や老年症候群の情報を知っていてアドバイスすると、とても効き目がある。別に自分で筋力運動していなくても、知識として知っているだけで十分。それを教えてあげる。
村上
患者さんとして診るのと運動指導というのは、もちろん違いがありますけど・・・医療の方に診ていただいているという安心感。そして、何かあったときでもいつでも助けてもらえる”安心感”の近くで運動を続けられるということは、介護利用者さんにとってもプラスになるし、とても重要な部分じゃないかなと思いますけど・・・。

松浦氏

松浦
この前、山口県で講座をやっていたときのことです。講座の途中にもかかわらず、自分の患者さんに覚えたての介護予防の話をしたら、すごく喜んでくれたと。やっぱり勉強して良かったということを話す若い先生が、何人もいました。結局はそういうものなんですよ。
村上
イイ話じゃないですか!そういう若い先生たちにこそ、たくさん介護のことを知ってもらえるといいかなと思います。講座のときも、私、いつも力が入ってしまうんですが、やはりそういうことを知っていただいて・・・どんどんご活躍いただきたいと思っています。

介護予防と運動のいい関係

「介護予防には、私は鍼灸師が向いているというか、強いと思います(永澤)」
永澤
たとえば「膝関節症」なんて、鍼灸がとてもいいんですよね。5~6年整形外科に通っても治らなかった人が、鍼灸で良くなったり・・・。ただ、一時的に痛みが取れても、そのままにしているとダメ。痛みをぶり返さないようするには、やっぱり運動なんです。
松浦
たしかに運動はいい。でも、自分一人でやるとなると・・・続かないと思いますよ。だから、指導する人がどうしても必要・・・そう思っています。
永澤
永澤氏「歩くのが基本」と、よく言っているんです。一つ手前の駅で降りて歩いてみるとか。もちろん運動指導もやっています・・・「こんな風にするんですよ」と基本を見せながら、待合室にいる間にやってもらったりしています。90歳を超えている人も、だいたい週に2回以上のトレーニングで下肢の筋力が強くなって歩行能力がアップしますから、人間ってすごいですね。

永澤氏

村上
「こういう運動すればいいよ」と言ってもらえるのは、すごくイイですよね。そのとき、「あっ、この先生って普通のお医者さんと違うんだ」という気持ちが生まれて・・・。みなさん年を取って悪くなっていきますから・・・「さて、どこへ行こうか?」となったときに、良くしていただいたところへ行くのが心情と思います。
永澤
そういうことを考えると、やっぱり介護予防って、それで終わるんじゃなくて、運動してもらって、それも理に適った運動をしてもらって、痛みは鍼灸で取るという形。介護予防を推進するのは理学療法士よりも鍼灸師の方が向いているというか、強いと思います。
「高齢者であれば、高齢者向けの運動ができないと・・・。そういうこともアドバイスできるのが、介護予防運動指導員の良いところ。(松浦)」
松浦
ただ、鍼灸院に来る患者さんは、運動が必要だけど自分ではできないという人が多い。これを忘れちゃいけないと思う。
永澤
そうかぁ・・・そういう場面も多くなりますよね。たとえば「変形性膝関節症」は、大腿の内側筋が弱っているからO脚になりやすい。脚の内側筋を鍛える運動がいいですよと説明して、その人のレベルでできることを指導するのが大事ですね。
松浦
そう、したくてもできない。高齢者であれば、高齢者向けの運動じゃないと・・・若い人ではないんだから。そういうこともアドバイスできるのが、介護予防運動指導員ですよ。だって、高齢者向けの運動方法や高齢者の自立や健康余命を邪魔する「老年症候群対策」をしっかりと把握しているんだから。それこそ知識があって、すごくプラスになっているところ。良い点だと思うんです。
運動したくてもできない高齢者の方には、何か妙薬があるそうですけど?
松浦
認知症には脳内の循環改善や神経伝達物質に関与する薬がありますよね?それはそれで良いんでしょうけど、薬にはデメリットもあります。じゃあデメリットを抑えながら同じような効果を期待するのであれば、何がいいのか。運動すればいい・・・。これが散歩を含めて歩行が奨励される理由ですよね。でも、寝たきりの人は運動できないわけだから、運動できない人に対しては何をするかというと・・・「さすればいいじゃないか」と。
東京都老人総合研究所の堀田先生のお話ですね。
松浦
脳内の循環が良くなって、脳の中にアセチルコリンがいっぱいできるから良いんだと。で、「さするのが一番ですか?」と訊いたら、「鍼も良いです」というお話でしたね。
鍼は接触するだけの小児鍼ではなくて、刺す鍼なんですか?
松浦
そうです。さする刺激と刺す刺激とは違うから、刺す刺激のほうが短時間で効果が出る可能性があるそうです。
小児鍼にも、カラダを活性化させることが期待できるという話もあるようですけど。
吉村
認知症では、「徘徊、介護拒否、攻撃性、意欲の低下」といった問題行動の発生が大きな懸念になっています。問題行動の発生メカニズムを考えたとき、子どもの「疳の虫」とよく似ている発想から認知症の方への治療を始めたのが7年半前。そのうちに医師からも「疳の虫の漢方薬を使って周辺症状が改善する」という発表が出てきて・・・着眼点は間違っていなかったと自信を持って続けてきたわけです。回数は優に5,000回を超えます。再現性が非常に高いのも利点ですね。

吉村氏

松浦
ただ、投薬が脳内の循環を良くすることを「100」とすると、小児鍼の刺激はどのぐらいなのか?「10」なのか、「5」なのか。それでも副作用が無い、デメリットが無いから、これはいいですよという説明はできる。そういうことをちゃんと知った上でないと、ただ単に鍼がいい、鍼がいいといっても、それは相手にされないかもしれない。
吉村
前後のアフターケアみたいなものも含めて、鍼灸をするとより効果があったり・・・疲労が残らず、すぐに再施術できるという点も、貢献できる部分ではないかと考えています。その辺のところもデータが取れるのであれば、取っていくべきだと思います。

老人は”愛すべき”子どもに似ている!?

年齢を重ねると、子どもに返るとよく言います。やっぱり子どものストレスも、年配の方のストレスも、結局はよく似た症状なんですね。
吉村
小児鍼は皮膚に刺さないから、安心安全で、怖くない。おまけに気持ちがいいというところをアピールしていけば、鍼を受けたことがない人でも、「熱い」「痛い」「怖い」のイメージから脱却して、「ちょっとやってみようかな」という人が出てくると思います。治療ではなく、予防として新しい分野に鍼灸師がかかわっていく--そうした道が拓けるとも考えています。
ただ、認知症そのものは、老化によるものというところで、治るものではないと思われていますが・・・。
吉村
座談会風景「記憶の喪失」といった中核症状については治るものではないかもしれませんが、一番問題になっている周辺症状に効果があるということは、認知症ケアマネジメントに強い影響を与えることができるものです。精神的にも安定され、仮面みたいに無表情な人でもニコッと笑ったり、風呂に入るのを嫌がる人でも、すっとお風呂に行かれたり、好きな歌を歌いだしたり、踊り始めたりする人もいます。直後効果もあり、問題行動を抑えられるというのが、実感としてあります。

松浦
何かを治すというよりも、生活をする上で具合の良くない症状を改善する。”生活の質”を維持・向上する手助けをする--治療は、ドクターにお任せでいいのでは?と。老化そのものによって具合が悪くなる老年症候群の人たちに対して、症状を緩和させるには、何かの刺激が必要だと。それが鍼ではなくて走ることかもしれないし、散歩することかもしれないけど。そういう方向に考えて、鍼灸師として「地域に貢献する」とした方がいいのではと思います。
吉村
疳の虫の小児鍼を使って、認知症を予防する――認知症の人にも、まだ認知症になっていない方の予防にも、「小児鍼で状況が良くなる」というところまで持っていきたいですね。小児鍼のメッカである大阪が中心になって、データも集めながら介護予防の有効な手法として確立し、広めていきたいと思います。特に認知症予防に介護予防運動と組み合わせて展開できないかと考えています。”介護予防鍼灸院”ができるようになればいいですね。
大人に小児鍼を――そういう輪を広めていって、高齢化社会に立ち向かう。そうすることで”生活の質”も向上していくのだろうと思います。”認知症予防に小児鍼”なんてネーミングも面白いですよね。これから「介護予防+鍼灸」のコラボレーションが、どんな花を咲かせようとしているのか。そして、患者のみなさんを診ている鍼灸師たちは、どこへ進んでいくのか――次号でたっぷりとお伝えします。どうぞお楽しみに!