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けんこう定期便

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No.19 【後編】いつまでも元気でいたい~“超”高齢化社会を明るく乗り切るために、鍼灸師ができること

「介護保険制度の中に鍼灸師を!」の思いから始まった『介護予防運動指導員養成講座』。その甲斐あって、加速する高齢化社会の中で、介護の“いろは”を知る鍼灸師が全国で900人以上誕生し、介護に対する意識も変わってきたといいます。介護や介護予防の知識から高齢者への思いやりも生まれ、医療とは違う、温かな“支え”ができることに気づき始めた――たとえば「介護予防のために、高齢者の方ができる運動は何か」とか、「認知症の予防には“小児鍼”がいい」というのも、こうしたながれの中で生まれてきました。
誰にも訪れる「老い」という現象。そして、介護という現実・・・避けては通れない“超”高齢化社会に、“介護予防”というヒカリを差し込もうと奮闘する介護予防主任運動指導員がいます。今回の後編では、鍼灸の、そして医療の未来やアイデアを、みなさんに披露していただこうと思います。
座談会参加者
・村上由佳氏(元花園大学社会福祉学部非常勤講師・介護予防主任運動指導員)
・吉村春生氏(介護予防主任運動指導員)
・永澤充子氏(介護予防主任運動指導員)
・髙田常雄氏(日本鍼灸師会介護予防委員長・介護予防主任運動指導員)
・松浦正人氏(日本鍼灸師会介護予防副委員長・介護予防主任運動指導員)

『介護予防鍼灸師』という名の希望

「認知症にもいいんですよと・・・それで鍼は刺さない、痛くない、熱くない、気持ちがいいということであれば、行ってみようかなという気持ちにもなるでしょう (吉村)」
現在、認知症の方は300万人を突破したと言われています。高齢者65 歳以上の人も3,000万人突破したと言われ、日本は文字どおり“超”高齢化社会を迎えています。
吉村
10人に1人が認知症という時代。それを鍼灸が予防できるということ。このことが鍼灸師が行政と手を組んで一般のみなさんへと広まれば一番いい。鍼灸が社会に取り上げられていく可能性も大きいと思います。認知症予防と高齢者の介護予防を組み合わせる――高齢者の運動をサポートして認知症の対策もできれば、最強の介護予防になるわけじゃないですか。

日本鍼灸師会で、ぜひともやっていきたいですね。そうすれば「介護予防運動指導員、やってみようかな」という人も出てくるだろうし――
吉村
たとえば「介護予防鍼灸院」みたいなことでやっていける可能性も出てくるわけじゃないですか。時間的にも、小児鍼とかなら10~15分ぐらいでできますから、患者のみなさんにもあまり負担がかからないと思いますので実現可能かと思いますよ。最終的には制度に組込まれることを夢見ています。
日本鍼灸師会の会員は、みんな介護予防ができるという体制に持っていけるぐらいにしたいですね。
吉村
今まで治療に来ていた人も、認知症にもいいんですよと聞けば、「だったら毎週来ようかな」という気持ちにもなるし、「認知症を改善しています」みたいなことをアピールしていけば、患者さんと鍼灸師との新しい関係もできてくるかなと。それで痛くない、熱くない、気持ちがいいということであれば、これまで敬遠していた人たちも、「じゃあ、行ってみようかな」となるかもしれない。
松浦
そこにプラスして・・・小児鍼やりながら、お話するとかカウンセリングをするとか。それなりの知識があって、介護福祉士や看護師の皆さんと話がちゃんとできるとか、いろいろな人と連携ができるようになっていかないといけないでしょう。

村上氏

吉村
介護に関わっていく以上は、介護保険の知識を持っていないと。「鍼はいいから」という、昔ながらの古典的なことも必要ですが、それで話をズンズン進めていくと、理解してもらえない部分もある。そのあたりに介護保険の中で話ができる共通の知識が必要になります。最終的には、日本鍼灸師会で「介護予防鍼灸師」みたいな認定制度を作ってやれたら、一番良いのだろうと思いますし、ひとつの希望としてあります。
松浦
それを考えると、ドクターや他職種の医療関係者と同じような言語で話せないと、まずいんですよ。その点、介護予防の知識はとても役に立つ。そういう意味でも有意義な講座なんです。これ、すごく大事だと思うんですよ。

介護予防に向き合う姿勢

「元気な人を増やしたいという鍼灸師さんの純粋な気持ちが強いから、これだけたくさん来られるのではないかと思って (村上)」
村上
イイお話に水を差してしまいそうですけど・・・ちょっと嫌らしい話をしてもいいですか?「介護予防、介護予防って、介護の必要な人が減ったら、仕事が無くなるじゃないか!」と言われたことがあるんです、介護福祉士に・・・。すごく残念な言葉だと思うんです。要介護の人が増えれば、仕事もたくさん増えるし・・・という考え方は、ちょっと悲しいなと。そこが、鍼灸師さんたちと目の付け所が違うところだなって。。
松浦
元気になってもらうことは、社会に貢献するということだから・・・鍼灸師になるとき、「治したい!」という強い思いを持っているからじゃないかな?

村上
介護福祉士の人って、介護予防の講座にほとんど出て来ないんですよ。まず、そこが違う。先生方はそうではなくて、ちょっとでも元気な人が増えてくれたらという気持ちがおありなので。そういう気持ちがあるからこそ、来られるんだなぁと思っていて・・・。
松浦
そういう気持ちだけではないと思いますよ。高齢化社会になっているということは、高齢者がもう増えているという意味だから、介護が必要になっている人も増えている。そうすると、それを予防するということが、非常に大事になってくるのは確かで、それを感じているんだと思いますよ。
村上
介護予防に興味を持っておられて、何とか元気な高齢者を増やしていきたいという鍼灸師さんの純粋な気持ちが強いから、これだけたくさん来られるのではないかと思っているところで・・・これは先生、本当ですよ!
松浦
予防して自立した生活を過ごしたいと思っている人は、たくさん居るはずなんです。そこにタッチできるという意味で、「介護予防+鍼灸」のコラボは、素晴らしい試みだと。僕はそう思っているんですけどね。
鍼灸師が介護予防というのは、ピンとこない。たとえば整骨院と鍼灸院があったら、とりあえず整骨院に行って低周波治療などをしてもらって、それでも治らなかったら、鍼灸治療をしてもらおう――そういう人が多いと聞きます。
村上
そうですね。低周波治療などでも張りが治らないのだったら、鍼を刺してもらったら治るんじゃないか・・・そういうイメージがすごく強くあります。だから、運動して筋肉が張っている状態で鍼をすると、これだけ張りが改善しますというものがあれば、すごくわかりやすいと思います。

村上氏

“わかりやすい”と言えば、介護サービスには「第三者評価」というのがあるそうですね。そこに「どれだけ施設が地域に開かれているか」を、チェックする項目があると聞きましたが。
村上
それこそ介護に対する講演会をやっているかとか、介護の相談について広く門扉を開けているかみたいなことを、最近すごく重要視していますね。鍼灸院も同じだと思うんです。どれだけ開かれているかという点では。
閉ざされていれば、症状がつらいときしか行きません。でも、ちょっとしたことでも開放的に診てもらえるようだったら・・・きっと違うはずですね。
村上
そうした目で見ていくと・・・せっかく介護予防の勉強をされているわけですから、介護予防の何ができますとか、それこそスーパーの1階でテントを張って、「ちょっとこんなのやっています」「ようこそ介護相談へ」みたいなのも、アリじゃないでしょうか。そして、「気になられる方は、『介護予防運動指導員』の講座を修了した、この鍼灸院へどうぞ」というのも、イイ方法なんじゃないかと思います。

元気なときからずっと診てくれる先生

「老化に対して、薬は無いわけ。ドクターも「この薬を飲んだら老化が止まりますよ」なんてことは無いわけだから、困っているわけですよ (松浦)」
普通は悪くなって、あっちこっち回ってから鍼灸院へ来る方が多いようですけど、その前から診させていただくようなことも必要になる?
村上
鍼や灸だけじゃなくて・・・よろず相談事ではないですけど。健康の一般的なことって、病院だとちょっと敷居が高いと思うんですよ。だから、いつでも気軽に行けて、ちょっとした健康に関する話が訊けたり教えてもらえたりできるとなれば、敷居はかなり低くなりますよね。普段から行けるんだって、そういうイメージがあれば・・・すごくイイと思います。
松浦
病気ではなく老化そのものが原因で具合の悪くなる人が多いというのも、わかっているわけだし。老化に対して何ができるか。アンチエイジングの考え方から、栄養と運動に社会参加だったり・・・そういうところへ、鍼灸をどう組み込んでいくかが問題。たとえば鍼灸と運動と栄養と・・・この3つでやれば、立派な、ちょっと言い方が悪いけど統合医療になる(笑)。気の利いた、良い先生になれるんじゃないかと思いますね。

松浦氏

老年症候群に対する症状の緩和を目指して、そこに“普段から”を足していけると良いかもしれないですね。
松浦
“治療”は大切ですが、老年症候群に対して“症状の緩和”をしてQOLの維持・向上を目指すという方向なら、鍼灸師はタッチできる。老化に対して、薬は無いんだから。ドクターもこの薬を飲んだら老化が止まりますよということは無いわけで・・・だから、困っているわけですよ。そこに、「普段から鍼灸」がマッチする。

明日の鍼灸~夢

「おやじがやっている鍼灸っていいんだなって思わせるようなことをやらないと、僕らはダメだ (髙田)」
統合医療というのは、どうやら一つの療法だけでやるよりも、効果が見込まれる複数の療法をミックスした方が有効だということがわかったと、本にも書いてあります。
松浦
鍼灸院の中で、何も鍼や灸だけにこだわる必要はない。運動を採り入れてもかまわないわけだし、栄養のアドバイスをしたって別におかしくない。そういうことが必要とされる時代になってきている――そういうことじゃないですか。
『介護予防運動指導員』の話は・・・そのひとつとも言えるわけですね。
松浦
鍼灸だけでやろうという考えは、もう変えなきゃいけないと思うんですよ。たとえば“鍼灸とヨガ”とか・・・何でもいいんですよ。瞑想でも、ハーブでも、そういうものでもいいです、それってみんな統合医療の枠に入っているわけだから。
永澤
今日の最初に話題になった小児鍼は、吉村先生と私の地元“大阪”では、とても盛んです。小児鍼は認知症の予防になるといって・・・。私もそうですが以前から多くの鍼灸師が実践してきました。吉村先生がそれを介護予防に結びつけたことは画期的なことです。これを統計的にも意義あるものにできるようにデータを集めたいですね。「鍼灸で認知症を改善」「認知症予防に取り組む鍼灸師」などのキャッチフレーズで一般の方々の認知度をアップするとともに、日本鍼灸師会の会員は、老年の患者さんに普段の治療にプラスして、認知症予防の小児鍼を行うようなことを展開したいものですね。

永澤氏

介護予防を始めて、いわゆるドクターの見方も変わったし、世の中もちょっと変わってきた・・・ただ、「ケアマネジャー」は全国的にも知られているのに、この分野で「鍼灸師」はあまり知られていないのも事実です。
髙田
これから私たちは、後輩たちが胸を張っていける道とか・・・レールというと大げさだけど、道標みたいなものを作っていくべきなんだと思う。
松浦
道?道標って・・・どんな?
髙田
今、必死に勉強している人とか、これから鍼灸の世界に出てこようとしている人たちに、夢を与えるような仕事というか・・・鍼灸っていいんだな、おやじがやっている鍼灸っていいんだなって思わせるような、そんなことかな。

高田氏

自分たちの選んだ仕事はいいんだということを、自信を持って言えて、後に続く若い後輩にもやっぱりいいんだなと思ってもらう――そういうことなんですね。
髙田
自分たちのやってきたこととか、やっていることよりも、若い人たちが食い付いて、これで食べていけそうだなと自信を与えてやる。ちょっと気恥ずかしいけど・・・“夢”を与えてやらないとダメだと思うんです。ただ、こうした夢があれば、時間はかかっても、この世界は伸びると信じています。
食事をとりながら、“仲間同士”の語らい・・・美味しい料理も手伝って、介護予防に向けた斬新なイメージ&アイデアが止まらない“3時間トーク”になりました。
いつも自分のことを気にしてくれて、ちょっとしたカラダの変化にも気づいてくれる。そして、何か悩みごとがあれば話を聞いてくれて、老いないカラダの作り方を教えてくれる――すぐそこの未来には、こうしたことを“売り”にした『介護予防鍼灸師』なんて肩書きがあちこちに見られるようになるかもしれませんね。そうしたら・・・日本の超高齢化社会も、元気いっぱいになるような気がします。みなさんに頼りにされる『介護予防鍼灸師』は、きっと胸を張れる、ステキな仕事になると思います。
指導員のみなさん、本日は長い時間にわたり、どうもありがとうございました。